シとツを間違えるのはなぜ?

カタカナが苦手な子どもの読み書きを心理師が解説
「シとツを何度教えても間違える」
「ソとンの区別がなかなかつかない」
「読めることもあるのに、書くと反対になってしまう」
「何度練習してもカタカナが定着しない」
お子さんの読み書きについて、このようなお悩みはありませんか。
特にカタカナの中でも、「シ・ツ・ソ・ン」は形がよく似ているため、混同しやすい文字です。
大人から見ると、
「点の向きを見れば分かる」
「よく見れば違いは明らか」
と思えるかもしれません。
しかし、子どもにとって文字を覚えることは、単純に形を目で見て記憶するだけの作業ではありません。
カタカナの読み書きには、
- 視覚的に文字を見分ける力
- 線の方向や位置関係を捉える力
- 音と文字を結びつける力
- 文字の形を記憶しておく力
- 手を動かして正しく再現する力
- 書いた文字を見直す力
など、さまざまな認知機能が関係しています。
名古屋市昭和区の心理発達支援教室 にじのそらでも、「カタカナがなかなか覚えられない」「シとツを間違える」といった読み書きに関するご相談があります。
今回は、公認心理師の立場から、なぜ「シとツ」を間違えやすいのか、そして「ソ・ン・シ・ツ」のような似た文字をどのように支援していくのかについて解説します。
なぜ「シ」と「ツ」は間違えやすいの?
「シ」と「ツ」は、文字を構成する線そのものが非常によく似ています。
どちらも、短い線が2本と長い線1本からできています。
違いは、
- 短い線が縦方向に並んでいるか
- 横方向に並んでいるか
- 長い線がどこから始まっているか
- どの方向に線が伸びているか
といった、位置や方向の違いにあります。
つまり、「シ」と「ツ」を見分けるには、「線が何本あるか」だけではなく、
線の位置関係や向きを細かく捉える力
が必要になります。
こうした能力は、心理学や発達支援の領域では、視覚弁別や視空間認知と関係する力として考えることができます。
また、「ソ」と「ン」についても同様で、形を構成する要素が似ているため、向きや位置関係の捉え方が不十分だと混同が起こりやすくなります。
「よく見て」と言われても難しい子どもがいます
カタカナを間違えると、
「ちゃんと見て」
「よく見れば違うでしょう」
と言われることがあります。
しかし、子ども自身は十分見ているつもりでも、文字の特徴をどこに注目すればよいのか分かっていない場合があります。
たとえば、「ツ」を見たときに、
「短い線が2本、長い線が1本ある」
ところまでは分かっていても、
「短い線がどの方向に並んでいるのか」
まで注意を向けられていないことがあります。
すると、「シ」と「ツ」を同じような文字として記憶してしまいます。
大切なのは、「よく見ること」ではなく、
どこを見れば違いが分かるのかを具体的に教えること
です。
「読めるけれど書けない」ことも珍しくありません
文字学習では、
「読める=書ける」
とは限りません。
たとえば「ツ」という文字を見れば「ツ」と読めても、
「ツを書いてください」
と言われると、
「どんな形だったかな?」
と分からなくなることがあります。
これは決して不思議なことではありません。
文字を読む場合には、目の前にある文字の形と記憶している情報を照合すればよいのですが、書く場合には、頭の中から文字の形を自分で思い出さなければならないからです。
さらに、
「ツ」という音を聞く
↓
「ツ」の文字を思い出す
↓
線の位置や方向を保持する
↓
手を動かして書く
という複数の処理が必要になります。
そのため、読みはできても書字が苦手なお子さんは珍しくありません。
「シとツを分かっている」のに、すぐ答えられない場合
個別療育で子どもの様子を見ていると、
最終的には正解できるものの、答えるまでに数秒かかることがあります。
たとえば、
「シはどっち?」
と尋ねたときに、
「……こっち」
と迷いながら答える状態です。
この場合、「まったく分かっていない」わけではありません。
ただ、文字の認識がまだ十分に自動化されていない可能性があります。
文字を読むとき、一文字ずつ、
「これは……シかな?」
と考えていては、文章をスムーズに読むことは難しくなります。
読み書きの発達では、
文字を見た瞬間に、その文字の音がある程度自動的に出てくること
が重要になります。
そのため、支援では単に、
「正解したか、間違えたか」
だけを見るのではありません。
- 正答までどのくらい時間がかかったか
- 迷いがあったか
- 別の文字と比較していたか
- 自信をもって答えられたか
といった点も観察します。
間違い方を見ると、つまずきの理由が分かることがあります
心理師による読み書き支援では、間違いそのものも重要な情報です。
たとえば「ツ」を書いてもらった際、
- 点の位置が横ではなく縦になる
- 長い線の向きが反対になる
- 「シ」に近い形になる
- 書くたびに書き順が変わる
という様子が見られることがあります。
この場合、
「ツ」という文字全体を正確に記憶しているというよりも、
「短い線が2本あって、長い線が1本ある文字」
という大まかな特徴だけを覚えている可能性があります。
つまり、文字の全体的な雰囲気は記憶できているものの、細かな方向情報までは定着していない状態です。
このような場合に、
「ツを10回書きましょう」
と反復練習だけを続けても、必ずしも効果的とは限りません。
まずは、
シとツのどこが違うのかを見分けられるようにすること
が大切です。
カタカナが苦手な子どもには「書く前」の練習も大切
読み書きが苦手なお子さんへの支援では、いきなり書字練習を繰り返すのではなく、課題を細かく分けていきます。
たとえば、「シ」と「ツ」の学習なら、
1.見分ける
「シ」と「ツ」のカードを並べて、
「ツはどっち?」
と指差しやカード取りで答えてもらいます。
2.読む
文字を1枚ずつ提示して、
「これは何?」
と尋ねます。
3.見ながら書く
見本を見ながら文字を書きます。
4.聞いて書く
「ツを書いてください」と口頭で伝え、見本なしで書いてもらいます。
このように、
見る → 選ぶ → 読む → 書く
と段階を分けることで、
「どの段階で難しさが生じているのか」
が分かりやすくなります。
「似た文字を並べる」練習には意味があります
カタカナの学習では、五十音順に、
ア・イ・ウ・エ・オ
カ・キ・ク・ケ・コ
と練習することが一般的です。
もちろん、それも大切です。
しかし、「シとツを間違える」といった特定の混同がある場合には、似た文字同士をあえて比較する練習も有効です。
たとえば、
シ ツ シ ツ
ツ シ ツ シ
の中から「ツだけ〇をつける」。
あるいは、
シ・ツ・ソ・ン
のカードを並べて、
「シを取ってください」
「ンを取ってください」
とカード取りゲームを行います。
このように似たものを並べることで、
「何となく覚える」のではなく、
文字同士の違いに注目して学習する
ことができます。
これは、似た刺激を区別する弁別学習という考え方にもつながります。
書き順は「きれいに書くため」だけではありません
「書き順なんて、読めれば多少違ってもいいのでは?」
と思われる方もいるかもしれません。
しかし、「シ・ツ・ソ・ン」のような似た文字では、書き順や運筆方向が文字を区別する手がかりになる場合があります。
文字を書くときには、視覚情報だけではなく、
手をどの方向に動かしたかという運動情報
も記憶に関係します。
たとえば、
「ここから書き始める」
「点はこの向き」
「最後の線はこの方向に払う」
という形で動きを一定にすると、文字の形と手の動きを結びつけて覚えやすくなります。
そのため、個別療育では、必要に応じて、
- 書き始めの位置を示す
- 矢印を使って方向を示す
- 点つなぎで線の方向を確認する
- 声に出しながら書く
といった方法を取り入れます。
ワーキングメモリーもカタカナ学習に関係します
カタカナの定着には、ワーキングメモリーも関係します。
ワーキングメモリーとは、
「必要な情報を一時的に頭の中に置いておきながら、それを使う力」
のことです。
たとえば、
「今見た『ツ』を、見本を隠して書いてみよう」
という課題では、「ツ」の形を一時的に記憶しておく必要があります。
そのため、
「見本を見ながらなら書けるけれど、見本がなくなると分からない」
という場合には、文字そのものの知識だけでなく、情報を一時的に保持する力が影響している可能性も考えられます。
そのような場合には、
見本を見ながら書く
↓
見本を見て、すぐに隠して書く
↓
数秒待ってから書く
↓
複数の文字を覚えて書く
というように、段階的に負荷を上げていく方法があります。
「何度書いても覚えない」は努力不足ではありません
保護者の方から、
「家でも何度も練習しているのに覚えられません」
というご相談をいただくことがあります。
しかし、読み書き学習では、
練習回数を増やせば必ず定着する、とは限りません。
文字の特徴を十分に理解できていない状態で、同じ文字を何度も書いても、効率のよい学習にならないことがあります。
むしろ、
「また間違えた」
「どうして覚えられないの?」
という経験が積み重なることで、本人が文字学習に苦手意識をもってしまうこともあります。
大切なのは、
「もっと練習すること」
だけではありません。
その子が、どこでつまずいているのかを確認すること
です。
「カタカナが苦手」といっても、つまずき方はそれぞれ違います
同じように「カタカナが苦手」と見える子どもでも、実際のつまずき方はさまざまです。
たとえば、
- シとツなど似た文字を見分けることが難しい
- 文字を見れば読めるが、音を聞いて書けない
- 見本を見ながらなら書けるが、思い出して書けない
- 書くことはできるが、とても時間がかかる
- 書いた文字が違っていても自分では気づきにくい
- カタカナだけでなく、ひらがなや漢字でも似た混同がある
などがあります。
そのため、「カタカナプリントをたくさんやればよい」と一律に考えるのではなく、その子の認知特性に合わせた読み書き支援が重要です。
名古屋市昭和区「にじのそら」の個別療育で大切にしていること
名古屋市昭和区の心理発達支援教室 にじのそらでは、読み書き課題について、単に正解数だけを見るのではなく、
子どもがどのように考え、どのように間違えたのか
を大切にしています。
たとえば、
「シとツのカードを選ぶまでに時間がかかる」
のであれば、視覚的な弁別や自動化の状態を確認します。
「見れば書けるけれど、聞いて書くと難しい」
のであれば、音から文字の形を想起する過程について確認します。
「正しく書けるときもあるけれど、線の方向が毎回変わる」
のであれば、文字の形の記憶や運筆方法について検討します。
こうした様子を踏まえて、
- カタカナカードを使った視覚弁別
- 読み上げた文字を選ぶ課題
- 似た文字を比較する課題
- 点つなぎやグリッドを使った運筆練習
- 見本を見ながら書く課題
- 見本を隠して書く課題
- 聞いた文字を書く課題
- ゲーム形式で素早く文字を見分ける課題
などを組み合わせて個別に支援していきます。
読み書き支援で大切なのは「たくさん書くこと」だけではありません
カタカナがなかなか定着しないと、
「もっと書かせた方がいいのでは」
と思われるかもしれません。
もちろん、文字を覚えるためには一定量の反復練習も必要です。
しかし、それ以上に大切なのは、
その子が正しく学習できる方法を見つけること
です。
「シとツを間違える」という一つの行動にも、
- 見分けることの難しさ
- 形を記憶することの難しさ
- 音と文字を結びつけることの難しさ
- 手を動かして再現することの難しさ
など、さまざまな理由が考えられます。
だからこそ、
「できないから繰り返す」
のではなく、
「なぜ難しいのだろう?」と考えることから支援を始める
ことが大切です。
カタカナや読み書きの苦手さが気になる方へ
「シとツをいつまでも間違える」
「カタカナがなかなか覚えられない」
「ひらがなや漢字でも似た間違いが多い」
「学校の宿題に時間がかかる」
「読み書きに苦手意識が出てきている」
このような様子がある場合には、ただ練習量を増やすだけでなく、お子さんがどの段階でつまずいているのかを整理してみることが大切です。
心理発達支援教室 にじのそらでは、公認心理師を中心に、お子さん一人ひとりの発達や認知特性を踏まえた個別療育・学習支援を行っています。
読み書きの支援でも、カタカナや漢字をただ繰り返し書くのではなく、
「見る」
「聞く」
「覚える」
「思い出す」
「書く」
といった学習過程を細かく見ながら、お子さんに合った方法を一緒に探していきます。
名古屋市昭和区周辺で、カタカナが苦手、読み書きにつまずきがある、個別で学習支援を受けたいとお考えの方は、お気軽にご相談ください。
文字の間違いは、単なる「不注意」や「努力不足」ではなく、その子の学び方を知るための大切な手がかりになることがあります。
間違いを減らすことだけではなく、「どうしたら分かるようになるのか」を一緒に見つけていくこと。
にじのそらでは、そのような視点を大切にしながら、一人ひとりの読み書きの力を支援しています。
