一斉指示が苦手な子どもには集団療育?個別療育?

「指示が通らない」理由から考える発達支援
「1対1で話すと分かるのに、園や学校では先生の指示が入らない」
「先生が『みんな、教科書を出してください』と言っても、周りの子が動き始めてからようやく動く」
「個別に声をかけてもらえばできるけれど、一斉指示では何をすればよいのか分からない」
このようなご相談は、児童発達支援や放課後等デイサービスでもよく聞かれます。
では、一斉指示が苦手なお子さまには、最初から集団療育を行った方がよいのでしょうか。
必ずしもそうとは限りません。
大切なのは、まず「一斉指示に従えない」という行動そのものではなく、なぜ一斉指示が難しくなっているのかを丁寧に考えることです。
そのうえで、
個別療育で必要な力を身につける
→ 小集団でその力を使う練習をする
→ 園や学校など実際の集団生活につなげる
という段階的な支援が有効な場合があります。
「一斉指示を聞く」は、実は複雑な課題です
大人から見ると、
「先生が話しているのだから、聞けばいい」
と思えるかもしれません。
しかし、子どもの側から見ると、一斉指示に従うためには、短い時間の中でいくつもの情報処理を行う必要があります。
たとえば先生が、
「みんな、算数の教科書を出して、32ページを開いてください」
と言ったとします。
子どもはまず、周囲にさまざまな刺激がある中で先生の声に注意を向けなければなりません。
次に、「みんな」という言葉に自分も含まれていることに気づきます。
そして、「算数」「教科書」「出す」「32ページ」「開く」といった言葉の意味を理解し、その内容を一時的に覚えておきながら、実際の行動に移さなければなりません。
つまり、一見すると単純な「指示を聞く」という行動の中に、
注意を向ける力、言葉を理解する力、聞いた情報を保持する力、自分に関係する情報を選ぶ力、行動を開始する力
など、さまざまな力が関係しています。
そのため、「一斉指示が通らない」という結果だけを見て支援方法を決めるのではなく、どの段階でつまずいているのかを考えることが重要です。
一斉指示が難しくなる理由① 先生の話に注意を向けにくい
集団場面には、たくさんの刺激があります。
友達の声、椅子を動かす音、廊下の音、掲示物、窓の外の様子などです。
その中から「今は先生の声を聞く時間だ」と判断し、注意を向け続ける必要があります。
1対1の静かな場所では指示を理解できるのに、教室では難しくなるお子さまの場合、言葉の理解そのものよりも、必要な情報に注意を向けることに負荷がかかっている可能性があります。
一斉指示が難しくなる理由② 「みんな」に自分が含まれていると気づきにくい
個別場面では、
「○○くん、鉛筆を出してね」
と名前を呼んでもらえます。
一方、学校では、
「みんな、鉛筆を出してください」
と指示されることが多くなります。
このとき必要なのが、
「先生は自分の名前を呼んでいないけれど、この指示は自分にも関係している」
と判断する力です。
個別に声をかけるとすぐに行動できるのに、一斉指示では動けない場合には、この部分も確認する必要があります。
一斉指示が難しくなる理由③ 言葉の理解に負荷がかかっている
短い指示なら理解できても、指示が長くなると難しくなることがあります。
たとえば、
「鉛筆を出して」
はできても、
「算数の教科書とノートを出して、32ページを開いてください」
になると分からなくなるケースです。
この場合、「指示に従う気がない」のではなく、一度に処理しなければならない言語情報が多すぎる可能性があります。
「何を」「どこに」「どうする」といった言葉の理解も含めて、指示理解の力を確認していく必要があります。
一斉指示が難しくなる理由④ 聞いたことを覚えておくことが難しい
先生の話を聞いて理解できても、行動に移すまでに内容の一部を忘れてしまうことがあります。
たとえば、
「プリントを出して、名前を書いて、鉛筆を置いてください」
という3つの指示に対して、
プリントは出したけれど、その後に何をするのか分からなくなる、といった状態です。
こうした場合には、聴覚的な情報を一時的に保持しながら処理するワーキングメモリへの負荷も考える必要があります。
一斉指示が難しくなる理由⑤ 理解していても行動に移せない
もう一つ重要なのが、
「分からない」と「分かっているけれど動けない」を区別すること
です。
先生の指示自体は理解していても、遊びや作業から気持ちを切り替えられなかったり、どこから始めればよいか分からなかったりすることがあります。
また、「間違えたらどうしよう」という不安が強く、周囲の子が動き始めるまで待っている場合もあります。
そのため、行動だけを見て「話を聞いていない」と判断するのではなく、その背景を考える必要があります。
では、個別療育では何をするのでしょうか?
ここまで考えると、一斉指示が苦手なお子さまにとって、個別療育が重要な意味を持つことが分かります。
個別療育の大きなメリットは、課題の難しさを細かく調整できることです。
たとえば最初は、
「赤いカードを取って」
という一段階の指示から始めます。
それができるようになったら、
「赤いカードを取って、箱に入れて」
と二段階にします。
さらに、
「赤いカードと青いカードを取って、赤だけ箱に入れて」
というように、少しずつ情報量を増やすこともできます。
「指示を短くすればできるのか」
「視覚的な手掛かりがあればできるのか」
「名前を呼ばなくても聞けるのか」
「少し離れた場所からの指示でもできるのか」
「別の活動をしている途中でも注意を切り替えられるのか」
と条件を変えることで、その子がどこで困っているのかも見えやすくなります。
これは個別療育の大きな強みです。
ただし、個別療育だけでは練習できないこともあります
一方で、一斉指示への対応を目標とするのであれば、個別療育だけですべてを完結させることは難しい場合があります。
なぜなら、1対1では基本的に、
「先生が話している=自分に話している」
からです。
ところが集団では違います。
先生が全員に話しているのか、別の子に話しているのか、自分にも関係する話なのかを判断しなければなりません。
さらに、周囲には他の子どもの動きや声があります。
つまり、個別場面で「指示を理解できる」ことと、集団場面で「一斉指示を拾って行動できる」ことは、完全に同じ能力ではありません。
ここで小集団療育が重要になります。
「個別療育→小集団」という段階づけ
たとえば2~3人の小集団で、支援者が、
「みんな、赤いカードを持ってください」
と指示します。
最初は一斉指示だけでは動けないかもしれません。
その場合、
「○○くんもだよ」
と個別に声をかけたり、カードを指さしたりすることで補助します。
そして慣れてきたら、その補助を少しずつ減らしていきます。
最終的には、
「みんな、赤いカードを持ってください」
という一斉指示だけで行動できることを目指します。
さらに、
「男の子だけ立ってください」
「赤いカードを持っている人は箱に入れてください」
「終わった人から椅子に座ってください」
など、自分に関係する指示と関係しない指示を聞き分ける練習へ発展させることもできます。
これはマンツーマンでは再現しにくい課題です。
「個別か集団か」ではなく、目的に応じて組み合わせる
発達支援では、
「一斉指示が苦手だから集団療育」
「個別療育を受けているから集団療育は必要ない」
という二者択一で考えないことが大切です。
たとえば、
①個別療育
名前を呼ばれたら注意を向ける
↓
短い指示を理解する
↓
複数の指示を覚えて実行する
②小集団療育
「みんな」への指示に反応する
↓
他児がいても先生の話を聞く
↓
自分に関係する指示を選ぶ
↓
必要に応じて周囲の行動も手掛かりにする
③日常生活への般化
園や学校、家庭など、実際の生活場面でも使えるようにする
という流れが考えられます。
つまり、
「個別で力を身につけ、小集団で使えるようにし、実生活へつなげる」
という考え方です。
「できない環境に入れること」と「練習すること」は違います
集団が苦手だからといって、単純に集団に入る時間を増やせば、一斉指示を聞けるようになるとは限りません。
現在の能力に対して集団場面の難易度が高すぎれば、
「何をすればいいか分からない」
「周りの子を見てから動く」
「個別に声をかけてもらうまで待つ」
という経験を繰り返すことにもなります。
重要なのは、できない状況を何度も経験させることではなく、少し支援があれば成功できる難易度を設定し、その支援を徐々に減らしていくことです。
そのため、集団生活で困っているお子さまであっても、個別療育から始めることには十分な意味があります。
「指示が通らない」ではなく、「どこで情報処理が止まっているのか」を見る
私たちが特に大切にしたいのは、この視点です。
「一斉指示が通らない」
という言葉だけでは、支援方法は決まりません。
先生の声に気づいているでしょうか。
先生に注意を向けられているでしょうか。
言葉の意味を理解できているでしょうか。
聞いた内容を覚えているでしょうか。
「みんな」に自分も含まれることが分かっているでしょうか。
理解した後、行動を始められているでしょうか。
このように細かく分けて観察すると、同じ「指示が通らない」というお子さまでも、必要な支援が違うことが分かります。
にじのそらでは、個別療育と小集団を目的に応じて組み合わせます
名古屋市昭和区の「心理発達支援教室 にじのそら」では、公認心理師を中心に、お子さま一人ひとりの発達特性や学習上のつまずきを確認しながら支援を行っています。
特に個別療育では、単にプリントや課題を行うのではなく、
「なぜ、この子にはこの課題が難しいのか」
という視点を大切にしています。
一斉指示が苦手なお子さまであれば、注意、言語理解、ワーキングメモリ、コミュニケーション、行動の切り替えなど、さまざまな可能性を考えながら課題を設定します。
そして必要に応じて2~3人程度の小集団で、個別療育で身につけた力を実際の対人場面で使う練習につなげていきます。
こんなお子さまのご相談もお受けしています
・1対1なら話を聞けるのに、集団になると難しい
・「みんな」と言われても行動できない
・個別に声をかけてもらわないと動けない
・先生の指示を聞き逃すことが多い
・長い指示になると途中で分からなくなる
・周りの子が動いてから行動することが多い
・就学に向けて、一斉指示を聞く力を育てたい
・小学校の授業についていけるか心配
こうした様子がある場合、「集団が苦手だから集団療育」とすぐに決めるのではなく、まずは何が難しさの背景にあるのかを整理することが支援の第一歩になります。
心理発達支援教室 にじのそらでは、個別療育と小集団での支援を組み合わせながら、お子さまが園や学校、家庭など実際の生活の中で力を発揮できることを目指しています。
