「覚えておく力」が学習を支える―ワーキングメモリーのトレーニング

「先生の説明を聞いていたはずなのに、何をするのか分からなくなってしまう」
「文章を読んでも、前に書いてあったことを忘れてしまう」
「計算の途中で、何を計算していたのか分からなくなる」
「一つひとつ教えるとできるのに、複数のことを言われると混乱してしまう」
このような様子が見られるお子さんの場合、学習内容そのものの理解だけではなく、「ワーキングメモリー(作業記憶)」の働きが関係していることがあります。
ワーキングメモリーとは?
ワーキングメモリーとは、簡単にいうと、必要な情報を一時的に頭の中に置いておきながら、その情報を使って考えたり、行動したりする力です。
たとえば、
「教科書の32ページを開いて、3番の問題をノートに書きましょう」
と言われたとします。
この指示に従うためには、
「32ページ」
「3番」
「ノートに書く」
という情報を一時的に覚えておきながら、実際に教科書を開き、問題を探し、ノートに書く必要があります。
途中で「何ページだっけ?」「何番だっけ?」となってしまう場合、単に「話を聞いていない」とは限りません。
聞いた情報を一時的に保持しながら行動することに負荷がかかっている可能性もあります。
ワーキングメモリーは「学習の土台」の一つです
ワーキングメモリーは、国語や算数など、さまざまな学習場面で使われています。
たとえば文章を読むときには、今読んでいる文だけでなく、少し前に書かれていた内容を頭に残しながら読み進める必要があります。
算数でも、
「8+7」を考えるときに、「8+2=10」としたあと、残っている「5」を覚えておいて「10+5=15」と考えるなど、途中の情報を保持しながら処理する場面があります。
漢字を書くときにも、先生が言った言葉を覚えておきながら文字を思い出して書くなど、ワーキングメモリーが関わります。
つまり、
「読む」「書く」「計算する」「話を聞く」「指示に従う」
といった学校生活のさまざまな活動の背景に、ワーキングメモリーが関係しています。
そのため、学習につまずいているお子さんに対して、問題集を繰り返すだけでは十分でないことがあります。
大切なのは、**「なぜ、この課題でつまずいているのか」**を考えることです。
にじのそらでは「できない理由」を考えます
心理発達支援教室 にじのそらでは、お子さんが課題を間違えたときに、単に「まだ勉強が足りない」と考えるのではなく、その背景にある認知機能にも目を向けています。
たとえば、
- 聞いた情報を一時的に覚えておくことが難しい
- 覚えておきながら別のことを考えることが難しい
- 複数の情報を同時に扱うと混乱しやすい
- 注意がそれると、保持していた情報が抜けやすい
- 頭の中だけで処理することへの負荷が大きい
など、その子が**「どの段階で難しくなっているのか」**を丁寧に見ていきます。
そして必要に応じて、学習課題だけでなく、学習を支えている認知機能に働きかける課題を取り入れています。
どんなトレーニングをするの?
ワーキングメモリーに働きかける課題には、さまざまなものがあります。
たとえば、いくつかの言葉や数字を聞いて覚える課題、聞いた内容から必要な情報を取り出す課題、覚えた情報を使って別の操作をする課題、複数の指示を聞いて順番に実行する課題などです。
簡単な例では、
「りんご・電車・ねこ」
という3つの言葉を覚えたあと、別の課題を行い、少し時間をあけてから思い出してもらうこともできます。
さらに、
「3、8、5と聞いたら、反対から言ってみよう」
といった課題では、単純に覚えるだけではなく、情報を一時的に保持しながら操作する力も必要になります。
お子さんの発達段階や得意・不得意に合わせて、負荷を調整しながら取り組むことが重要です。
「トレーニングすれば記憶力が上がる」と単純には考えません
ここは、とても大切なところです。
ワーキングメモリーのトレーニングを繰り返せば、あらゆる学習能力が一律に向上する、と単純に考えることはできません。
特定の記憶課題が上達しても、それがそのまま国語や算数、学校生活全般に広く転移するとは限らないからです。
そのため、にじのそらでは、「記憶力を鍛えるゲーム」だけを繰り返すことを目的にはしていません。
大切にしているのは、
①その子の認知特性を把握すること
②その子に合った方法で認知機能に働きかけること
③実際の読み・書き・計算・指示理解などの学習課題と結びつけること
④苦手な部分を補う方法も身につけること
です。
たとえば、ワーキングメモリーへの負荷が大きいお子さんには、「覚えられるまで頑張る」だけではなく、
「指示を短く区切る」
「目で見える形にする」
「メモを使う」
「途中経過を書き残す」
「一度に扱う情報量を減らす」
といった工夫も重要になります。
能力そのものへの働きかけと、苦手さを補う環境調整や学習方略の両方を考えることが、実際の生活や学習につながる支援だと考えています。
大切なのは「その子に合った学び方」を見つけること
同じ「勉強が苦手」というお子さんでも、その理由は一人ひとり異なります。
読み書きそのものに難しさがある場合もあれば、注意のコントロール、言葉の理解、視覚認知、情報処理の速さ、ワーキングメモリーなどが影響している場合もあります。
そのため、にじのそらの個別療育では、目の前の問題を解けるようにするだけではなく、
「この子は、どこでつまずいているのだろう?」
という視点を大切にしています。
そして、必要に応じて認知機能への働きかけを取り入れながら、実際の学習課題へとつなげていきます。
できない問題を何度も繰り返すだけではなく、「学ぶための土台」を整える。
それが、にじのそらが大切にしている個別支援の一つです。
